「Romance de Paris ーディディエ外伝ー中日版」 脚本 |
望みの果て… 「Romance de Parisーディディエ外伝ー中日版」 信じるのは自分だけ(ディディエ) 砂埃と、太陽。日中は茹だるような暑さの中フランスから遠く離れたアラブの小国。 そう、本編のナディア王女の祖国である。 ディディエは、その国へやって来ていた。 ディディエの、回想。 シルヴァン「ディディエ。お前は、学びたいと言っていた。その目的は果たせたと思うが…。」 ディディエ「はい…。」 正妻 「貴方の努力は、認めます。でも、パトリシアの夫として認める訳には、まだいきません。」 ディディエ「条件は…!?」 正妻 「目に見える事。家柄や学歴で無くても、将来に期待が持てる実績を…。」 シルヴァン「ディディエ。暫くフランスを離れてもらう。」 ディディエ「フランスを、離れる!?何処へ行けと…。」 シルヴァン「我が社の最大の取引先である、アラブの国へ行って貰う。 向こうで仕入れや、石油産出のノウハウを学んで来てもらう。」 ディディエ「…。」 シルヴァン「良いか、現場で働く人達を、お前がどう扱うか、お前が向こうでどういった仕事が出来るかは、 大きな大切な事柄になるだろう。これからを良くも悪くも左右する事になる。 私も、パトリシアもお前の側に居ない、その状況でお前が自分の知識と力で、 総てを解決して結果を出したとき、私はお前を呼び戻す。」 ディディエ「出来なければ、お払い箱…ですね。」 シルヴァン「そうだ…。」 シルヴァンの試験とも取れる、アラブでの仕事とは、ディディエは不安になりながらも、 期待されている事で、 何が出来るのか、何を望まれているのか、考えていた。 そこへ、子供達が集団で走ってくる。ぶつかって通り過ぎようとするのを手近に居たのを捕まえて。 ディディエ「返せよ。旅行者と甘く見るんじゃない。」 お約束だが、スリの子供達。落ち着かず、キョロキョロしていた、ディディエに目を付けたが、 彼の目は流石に誤魔化せなかった。 サミン 「痛い!!放せよ。分かったよ。」 懐に隠した、ディディエの財布を放り投げて行こうとする。 ディディエ「待てよ…。」 中から、一枚金貨を投げて。 ディディエ「これで、道案内をしてくれ。この国のアラカト社の事務所へ行きたい。知っているか!?」 サミン 「あぁ、知ってる。」 金貨を嬉しそうに拾って。 サミン 「こっちだ…!!」 そう言ったかと思うと、駆けだして行く。慌てて後を追うディディエ。 ディディエの予想よりは、こぢんまりした建物の前に辿り着く。 サミン 「ここだよ!!」 サミン素直にそのまま行こうとする。 ディディエ引き止めて。 ディディエ「待て。これをやるから、盗みはするな。」 もう一枚、金貨を投げてやる。 ディディエ「これで、観光客が引っかかりそうな品物を仕入れろ。 騙すなら相手も気持ちよくなる方法を選べ。」 サミン 「分かったよ。また何かあったら声かけてくれよ。気前の良い兄ちゃん!!」 ディディエ「兄ちゃんか…。ディディエだ。お前は!?」 サミン 「サミン!!さっきの通りに普段は仲間と居るよ。」 ディディエ「分かった!!」 ディディエは、建物の中へ。サミンは退場。 事務所の中は、殺風景とも言える状態。 ディディエ「誰も、居ないのかな!?フランスのアラカト社から来ました。どなたか居ませんか!!」 奥から、女性が1人登場する。 サーラ 「はい…。フランスの方がいらっしゃるのは、お聞きしてますが、今日だったのですね。 お知らせくだされば…。」 ディディエ「迎えに来てくれたと、でも!?」 サーラ 「たぶん不可能でしたわ。こちらは、現地の者ばかりなので、そこまで気が付きませんでした。」 どこか含みのある言葉と、雰囲気にディディエは興味を持っていた。 ディディエ「私は、ディディエ。フランスの本社。社長からこの国で仕事をしてこいと言われてきました。」 サーラ 「私は、サーラ。こちらの事務員兼秘書と言った所でしょうか!?」 ディディエ「秘書!?誰のこちらの責任者の!?」 サーラ 「えぇ、そしてこれからは、貴方の…。」 2人がお互いの考えを探り合っている所へ。 ここの責任者とおぼしき、素朴な男がやってくる。 ハッサン 「サーラ、お客さんかな!?」 ディディエ「フランスから来ました…。」 いったい何度自己紹介するんだと思いながら…。 サーラ 「ハッサン。こちらは、ディディエ。本社からいらしたのよ。社長の命令で…。」 ハッサン 「フランスから…、なら私の上司と言うことになるかな!? 私は、ハッサンこの事務所を任されていますが、連絡係って所です。」 ディディエ「こちらでの、業務内容や、仕事の内容を確認したいのですが…。」 ハッサン 「私より、このサーラの方が、詳しいと思いますから、彼女に聞いてください。 私でないと駄目なときは、お手伝いしますから。」 と、言ってその場を離れてしまう。 サーラ 「宿泊のホテルにお送りしましょうか!?長旅でお疲れじゃありませんか!?」 ディディエ「この国での、我が社の人員は君とさっきの男だけなのか!?」 サーラ 「はい、実質的には…。」 ディディエ「実質的!?」 サーラ 「はい、石油産出については、国王に権限があります。 採掘する量や販売の利益などは国側が中心になりますから、 こちらは中継と言ったら分かりやすいかと…。」 ディディエ「この国での仕事が中継…!?取引が国王に委ねられているだと…。」 サーラ 「はい。」 ディディエ「一度国王に会っておく必要があると言うことか、面会は出来るのか!?」 サーラ 「面会!?(笑)謁見の手配ですね。承知しました。」 ディディエ「謁見…そうだ…よろしく頼む。」 王族は流石に初めてなので、勝手が分からなかった。少し気まずく照れくさい。 ディディエ「ホテルへ行く。案内してくれ。」 サーラ 「承知しました。」 サミン達子供と、軍の関係者と分かる男達が、お互いを牽制しあうように、すれ違っていく。 軍は、力の象徴であり。子供は弱者の象徴。 それに、普通の大人達が混じり合い通り過ぎていく。 その中程から、ディディエが登場する。 ディディエ「サーラ!!」 呼ばれて、登場する。人々はいつの間にか退場している。 サーラ 「はい、ここに。」 ディディエ「謁見は、終わった。君の言うとおり、石油に関すること、国の政治。 すべて国王が中心なのだな。」 サーラ 「はい。」 ディディエ「それを崩す事は…。」 サーラ 「不可能と思いますが!?国王は穏和な方ですが、国の実状は安定していますし、 他国よりの侵入は軍部によって抑えられるように、常に目が配られています。」 ディディエ「軍部!?軍隊の指揮権も国王に!?」 サーラ 「最終決定は、国王ですが…。基本的には国王が任命する将軍に委ねられています。」 ディディエ「現在の将軍は…!?」 サーラ 「現在の将軍は、老齢です。近々交替と漏れ聞いています。」 ディディエ「軍部の最高幹部の交替か…。良いタイミングかも知れないな!?候補者を調べてくれ…。」 サーラ 「分かりました。」 ディディエは、既にシルヴァンが懇意な国王に取り入るより。 これからの権力者との繋がりを持とうとしていた。 2人退場。 パトリシアが、1人アラブへ行った、ディディエを心配している。 手紙は届くものの、いつ帰ってくるか予測も出来なかったから。 パトリシア「ディディエ。そちらに行ってから、もう半年が過ぎます。 この手紙が届くのはもっと後かもしれない。元気で仕事をしていると言うけれど、 熱くなると目の前が見えない人だから心配しています。 どうか目に見えるものだけに惑わされないでね。」 ホテルの朝である。サーラが傍らに居る。と、言うか起きあがる。 ディディエ「朝か…。」 サーラ 「おはよう。近々帰国が決まったそうね。」 少し皮肉混じりに…。 ディディエ「ありがとう。この国へ来た当初は何をするべきか迷ったが、 君の手助けと国王の人柄で企画も通り、新しい事業の目処も立った。 今度はフランス国内。いや、ヨーロッパ全土を相手にしての大勝負が待ってる。」 サーラ 「そして、可愛いお嬢さんも…。」 女の可愛い焼き餅と後ろから抱きしめて、首筋にキス。軽く振り解かれて。 ディディエは自分の思惑が当たって居ることに満足していた。 ディディエ「お互い、割り切った、つき合いの筈だがな!?」 サーラ 「私も自分の母親と同じ事している。」 ディディエ「君の父親も、フランスの人だった。」 サーラ 「よしましょう。この国に貴方が居る間だけの、恋人。それで満足よ。」 ディディエ「そして、優秀な秘書だよ、君は…。パトリシアが待っていてくれないなら、 連れて帰りたいぐらいだ。」 サーラ 「でも、彼女は待ってる。」 ディディエ「あぁ、だから帰る。この国での実績は認められた。帰ってこいとの連絡もあった。 将軍の人事を読み切った事。新しい事業の為に、国王の信頼も得た。」 サーラ 「彼女の夫となる資格を、この会社を…。」 ディディエ「そうだな…いずれ、そうなる。その時はもっと大きな仕事をやってみせる。」 サーラ 「前しか見てないのね。きっと自分の見えるものしか、見てない。」 ディディエ「サーラ!?」 サーラ 「それで良い。さあ、私にもう少しだけ夢を見させて…。」 ディディエの首に腕を回し、彼女から口づけを2人そのまま再びベットへ…。 愛を手に入れるために(ディデエとパトリシア) ディディエとパトリシア。束の間の恋人となったサーラの三重唱を入れたい。 求める物は、それぞれ違っている。 パトリシア『信じる事 私に出来るのは それだけ』 サーラ 『求めない事 私に許されるのは それだけ』 ディディエ『力を手にする より大きな力を それが望み…』 3人 『夢を見続けて居たい その先に光があると信じて』 パトリシア『愛されていると あの日の温もりが真実と分かっているけれど 貴方は あの頃と変わってしまった』 サーラ 『一時 束の間と知っているから 行かせたくない帰したくない 貴方に その本心は明かせないけど』 ディディエ『愛を手に入れる為に 力を身につけた 力を手に入れる為に 愛さえ利用する術を覚えた 夢を手に入れ 愛を手に入れ より大きな力を俺は手に入れてみせる』 3人 『夢を見続けて居たい その先に光があると信じて』 幸せを願って居るけれど… (ヴァンサン) ヴァンサン「あいつが帰ってきた。以前よりもっと危険な男になって。 何を見て何をしてきたのかは、俺は知らない。知りたいとも思わない。 しかし、あいつがパトリシアの夫になる条件が揃った事が、ある意味驚きだった。 あの人が良く許したものだ。上流階級のプライドの高い。パトリシアの母親が…。」 何か、思い当たる事。心配で不安に思うことがあるのだが、それが形になる前に振り払ってしまう。 ヴァンサン「パトリシアが、幸せになってくれるなら良い。彼女が幸せになってくれるなら。 そう今は信じるしかないのか…。」 ヴァンサンは、姉の幸せを強く望んでた。自分の事より回りの人々の幸せを、 その事がディディエの心の内に今は無い物だった。 野心と理想(ディディエとシルヴァン) シルヴァンとディディエが、話をしながら出る。 会社の中らしく他の社員達が挨拶しながら通り過ぎていく。 シルヴァン「ディディエ。お前のやろうとしていることは、確かにこれから必要になってくる事だ、 それを進めてのメリットとリスクは…!?」 ディディエ「メリットは、やはり利便性。これから運送や個人にとっても便利で早いが望まれると考えます。」 シルヴァン「それで、石油製品の開発に頼らず、エネルギーとしてのガソリンや軽油などの自動車業界に 目を付けた…、と、言う訳か…。」 ディディエ「はい…。」 シルヴァン「リスクは…!?」 ディディエ「リスク…」 シルヴァン「良いか、ビジネスはメリットだけじゃ無い。裏表にリスクも背負わなければならない。 現在より自動車の台数が増えれば、その事で起こりうる問題点も考慮するべきだ。」 ディディエ「はい…。」 シルヴァンは、やはりまだ越えられない壁だった。 シルヴァン「まぁ、良い…。それで見通しは…!?」 ディディエ「順調です。国内だけでなく、国外の会社とも契約は進んでいます。」 シルヴァン「結構だ…。ディディエ今、お前がやろうとしている事は、実現すれば人々の、 消費者の理想となるだろう。だが、行き過ぎると野望でしかない。」 ディディエ「理想と野望…!?」 シルヴァン「そうだ、自分以外、もしくは自分を含めた人々の為に実現される夢は、理想となる。 しかし、自分の為だけの夢は、野望、野心でしかない。」 ディディエ「…。」 シルヴァン「お前は、私の希望した以上に学び成長した。会社内での人望も得ている。 だからこそ、自分に溺れるな。自分を見失った時、お前は…。」 そこへ、シルヴァンを呼びに、秘書が入ってる。 秘書「社長、お時間です。」 シルヴァン「わかった…。」 ディディエ「それでは、私は失礼します。」 丁寧に挨拶して、その場を離れるディディエ。複雑な思いで見送るシルヴァン。 ディディエ「野心。理想。野望。夢。」 先程のシルヴァンの問いかけを理解しようしていた。 ディディエ「望みを持つことが、理想ではいけないのか!?野心と言われようと、 夢を実現させようと努力して、どこが悪い…。」 ディディエは、混乱している。自分が認められ、いよいよ目の前が開けようしているのに、 何か嫌な物を突きつけられた気がして…。 ディディエ『夢を 見ては駄目だと言うことか 野心は 夢をかなえる力になる 理想は高く大きく それが間違いだと 己の望みは 野望に過ぎないのか 突き進んで来た道は 平坦では無いと知りながら この先に これ以上に 俺に何が足りないと言うのか 力を地位を富を手に入れる事は 理想と言えないと言うのか』 ディディエは、自分が何を求めて居るのか、何を求められて居るのか、まったく見えていなかった。 上流階級の条件(シルヴァンと正妻) シルヴァン「あの男は、君の条件をクリアした。」 正妻 「えぇ、育ちの悪さは隠せないまでも、事業に置いて充分な結果を出してくれました。」 シルヴァン「パトリシアとの結婚を…。」 正妻 「了承します。この屋敷に正式に住まう事も許可します。」 シルヴァン「結果が総てか…。君らしい…。」 正妻 「私だって、あの子が本気で、あの男をディディエを好きな事ぐらい分かっています。 アラブへ行っている間に、何度お見合いを進めても、どうせお断りするのだからと…。 毎日遠い空を見て、ディディエが迎えに来ると信じて待っていた。 そして、それに応えたんです。認めない訳にはいきません。私だって母親なんです。」 シルヴァン「あぁ、あぁ…。わかっているよ。」 正妻の肩をそっと抱き寄せて、静かに退場する。気持ちが通じ合った瞬間。 手に入れた、地位と名誉と富(ディディエ) 正装した人々が華やかに登場する。いよいよ、ディディエとパトリシアの結婚式である。 親族や、会社関係。その他大勢の人々が集まってくる。 シルヴァンと、正妻も穏やかな表情で、娘の幸せを心から願い喜んでいた。 挨拶に来る人達との、やり取りも穏やかなものである。 そこへ、2人の登場を知らせる合図が、ある。 ディディエとパトリシアが登場する。純白のドレスは眩しく輝いている。 正妻 「パトリシア…(優しく抱きしめて)おめでとう。」 パトリシア「お母様…。」 シルヴァン「ディディエ。パトリシアの事頼んだぞ…。」 ディディエ「はい…。」 父親として、母親としての2人の想いを受け入れる。ディディエ。 そこへ、傍観するように、佇んでいたヴァンサンが声をかける。 ヴァンサン「パトリシアが、結婚して。親父の会社もこれで安泰だし…。 俺は家を出るよ、やりたい事もあるから…。」 突然の宣言に、シルヴァンは驚く。 シルヴァン「ヴァンサン…。お前…。」 ヴァンサン「遊び仲間に、面白い奴らが居てね。そいつらとクラブでもやってみようと思っている。 ちょっとしたショークラブ。」 シルヴァン「そうか…、わかった。資金は心配するな。私が何とかする…。」 正妻 「貴方…!!」 彼女は不服ながら、シルヴァンの本当の望みを知っていた。ヴァンサンを憎みながらも…。 ヴァンサン「パトリシア。幸せに…。」 ディディエは、ヴァンサンが、現れた事で血のつながりと言う絆の中に、自分は入れないと実感する。 疎外感と孤独。ヴァンサンに対する敵対心。 ヴァンサンは、姉の幸せを祝福したら、さり気なく、その場を去る。 皆が、それぞれの想いで見送って。 改めて、他の招待客などが登場して、賑やかになっていく。 ディディエは、その場から離れる。 ディディエ「ついに手に入れた。パトリシアの愛も、その結果得られる。地位も富も全部。 だが、これで満足なんかしない。もっともっと力を手に入れてみせる。 誰にも負けない。力を手に入れる。」 ディディエの欲望は、果てが無かった。野心と野望。誰にも自分を止めることなど出来ない。 そう信じて居るからこその、破滅へのプロローグの始まりに気が付かなかった。 実らない夢(シルヴァン) シルヴァン「パトリシアとディディエが結ばれた事は、私は本当に良かったと思っている。 私も老いた、現役として仕事をしていくのは、もう数年が限界だろう。 私の後を…私の会社をお前達3人に任せることが最後の夢だったのだが…。 この夢は実ることは無いのだろうか…。」 娘を息子を、そして自分が見つけた男を信じたいが、3人の心は別々の方向へ向かっている気がしていた。 愛しているから、すれ違う心(ディディエとパトリシア) 朝のシルヴァン邸。パトリシアが、ディディエの準備を整える間も無く。 ディディエは出かけようとしている。 パトリシア「ディディエ。待って、朝食の仕度は出来ているのよ。少しは食べてから…。」 ディディエ「ごめん。大切な約束が繰り上がったと連絡が入ったんだ。 大きな取引先だから待たせる訳にはいかない。 (なだめるように、キス)分かってくれるね。仕事なんだ…。」 パトリシア「ディディエ…。今夜は…。」 ディディエ「今夜か…!?(少し考えて…)午後からパリを離れて視察に行くことになっている。 郊外の新しい工場だ、戻って来れると思うが、深夜になるかも知れない。 心配しないで先におやすみ。」 もう一度、抱き寄せてキス。パトリシアは、暗い表情のままディディエのやりたいように身を任せている。 パトリシア「週末は、ディディエ…。」 ディディエ「分かったよ。君のために予定を空けておくよ。」 パトリシア「ディディエ…。」 ディディエ「じゃあ、行ってくる。」 パトリシア「愛してる」 ディディエ「あぁ、愛しているよ。」 優しくでも、形だけの抱擁。 ディディエを、迎えに秘書のフレデリクが、待っている。 ディディエ「話は…!?」 フレデリク「はい、大丈夫です。」 ディディエ「行こう…。」 パトリシアの事は、既に頭から離れていた。 見えなくなった心(パトリシア) パトリシア「ディディエ…。仕事、仕事、仕事…。 貴方が必死になるのは、私達の為だと信じたい。 お父様の期待を裏切らない為だと…。でも、私の声が本当に聞こえているの!? 私の姿は、貴方の瞳に映っているの!?。」 幸せになる筈だった。いや、幸せな筈なのに、 2人の心は、すれ違い重ならない、変わってしまったと嘆くパトリシア。 パトリシア『温もりは ここにあるのに 貴方は 優しく抱いてくれるのに その言葉に その温もりに 安らげない私が居る 私を 見て 私の 声を聞いて 貴方の側に 貴方の事だけを 見つめ 信じ 生きる 分かり合えたあの日は 幻なの 私は 貴方の心が 見えない』 ヴァンサンは自分の新しい場所を作っている。気楽に付き合える仲間や、慕ってくれる人々と共に…。 店の飾りつけや、内装の打ち合わせ。ショーの内容など、笑い声が絶えない明るい人々。 ヴァンサン『夢は 見ない でも 夢見る連中を見てるのは好き 夜通し語り合い 飲み 笑い そして働く 疲れたら 眠る 気楽に 深く考えず でも 今は楽しい』 クラブの 『夢は 自分で掴むもの メンバー でも 1人じゃ無理 誰かが手を差し出せば その手を 見失わなければ きっと 夢は叶う そう 自分も誰かの夢の為に 差し出せる 手を持ちたい』 彼等には信頼と言う絆があった。押しつけ合うのではなく。自然にそこが彼等の居場所だった。 そんな中で、ヴァンサンが、輪から外れる。 ヴァンサン「俺は今の気楽な毎日に、満足しているが…。本当にこれで良かったのだろうか…。」 静かに、父親にパトリシアに想いを馳せる。 力は金 求めるのは誰にも負けない力 (ディディエ) ディディエが、フレデリクと出る。 ディディエ「それで、領事館は何と言ってきたんだ。」 フレデリク「近日中に、本国へ起こしくださいと…。」 ディディエ「国まで来いと言うことか…。こちらで話をすれば済む事だ…。」 フレデリク「しかし…。」 ディディエ「分かった。エリーズ来てくれ。」 本編で使って居た。インターホォン!?を、使って女性秘書のエリーズを呼ぶ。 エリーズ「はい、社長。」 ディディエ「私の来週のスケジュールを、キャンセルして欲しい。」 エリーズ「総てですか!?」 ディディエ「そうだ、それと航空券の手配を、すぐに戻るがアラブへ行って来る。」 エリーズ「わかりました。」 フレデリクとエリーズは、腹心の部下である。ディディエが何を考えどうしたいか、 一言も聞かずに指示に従って仕事をこなしていた。 そのまま、屋敷へと転換する。 夜遅くのディディエの帰宅。 パトリシア「ディディエ。おかえりなさい。」 ディディエ「待っていたのか…。先に休んでくれてて良かったのに…。」 パトリシア「だって最近の貴方は、仕事仕事と、眠る間さえ惜しんでる。お願い少しは…。」 ディディエ「心配しないで…。そうだ仕事絡みだけど来週。アラブへ行って来る。 数日で帰るからお土産を楽しみに待っていておくれ。」 パトリシアは、行き先がアラブと聞き不安になる。 パトリシア「どうしても、行かなければいけないの!?」 ディディエ「あぁ、先方がどうしても本国で契約したいとおっしゃるんだよ。」 パトリシア「…。」 ディディエ「契約が済めば、戻ってくるから。」 パトリシア「…。」 優しく、肩を抱いて2人退場する。 最後の願い (シルヴァン) シルヴァン「最近パトリシアが沈みがちに見えるのは、私の思い過ごしだろうか…。 あの子の結婚は間違っていたのか…。」 シルヴァンの中の迷い。不安。 シルヴァン「パトリシア…。ディディエは…!?」 パトリシア「出発しました。」 シルヴァン「アラブか…。何度目だ…!?」 パトリシア「何度目なのかしら…。一年の内に数度出かけて行くわ。ほんの短い期間だけれど…。 嫌な嫌な予感が…。」 振り払う事が出来ない、大きくて嫌な物に取り囲まれて居るようで、怯え竦むパトリシア。 シルヴァン「ディディエは、取引のために、向こうへ行って居るのだね。」 パトリシア「はい。いつもそう言って出かけます。」 シルヴァン「取引か…新しく何か始めるつもりなのか…。」 ディディエの考えを、推測するように立ち上がろうとした瞬間。意識が遠のく感覚があって、倒れる。 パトシリア「お父様!!」 助け起こし、そのまま人を呼ぶ。 パトリシア「誰か、お父様が!!誰か来て!!ディディエ!!ヴァンサン!!」 夫を、弟を呼ぶ彼女の声は、2人には届いて居なかった。 後日、ディディエが、戻ってくる。 ディディエ「会長の容態は…!?」 迎えに来たのは、フレデリク。彼に鞄やコートを預けながら。 フレデリク「容態は安定しました。意識も戻られたと先程報告がありました。」 ディディエ「そうか…、それは良かった。」 良かったと、言いながら何処か冷たいものが言葉の端々にある。 フレデリク「安定は、されたのですが、それ程安心出来る状態では無いようです。」 ディディエ「安心出来ない!?いつ危険な状態になっても、おかしく無いと言う事か!?」 フレデリク「はい…。」 危険と聞いて、微妙な表情を浮かべるディディエ。 ディディエ「このまま、屋敷へ戻る。」 フレデリク「病院へは!?」 ディディエ「安定しているなら、今日行く必要は無いだろう。明日改めてゆっくり顔を出す。」 フレデリク「はい…。」 ディディエの気性は、理解しているつもりだったが、彼にとっても病院へ向かわないのは不自然な気がした。 しかし、従うしかない。2人そのまま退場。 ささやかな幸せを…(パトリシア) パトリシアと、正妻(母親)が、話をしている。 どうやら、シルヴァンの遺産。遺書に付いて。 正妻 「パトリシア。もしもの事があれば、私はあの人の考えを気持ちを叶えてあげたいと思っています。」 パトリシア「お母様。」 正妻 「あの子にしてきた事は、私の女として、どうしても許せなかった事。 それが他の人から見て非難される事であっても…。」 パトリシア「…。」 正妻 「でもね、あの人の望みは理解してきたつもりなのよ。確かにすれ違う事もあった。 憎しみ合い。傷つけ合う事もあった。それでも私達は、夫婦なのよ。 だからこそ、もしもの時は…。」 パトリシア「お母様。自分を責めないで、今の私なら、貴方の事も理解出来ます。だから…ね。」 正妻 「パトリシア…。」 ディディエの帰宅を知らせる合図がある。 2人はそれに気付かない。 ディディエ、登場。 ディディエ「パトリシア。ただいま。」 呼ばれて、漸く気が付く。 パトリシア「ごめんなさい。おかえりなさい。」 パトリシアと、母親は先程の話が聞かれているのではと、警戒する。 パトリシア「お父様の様子は如何でした!?」 ディディエ「お見舞いは、明日にしたよ。」 当たり前のように、病院へ行って来なかったと告げる。 パトリシア「…。」 ディディエ「容態は安定したと、報告があったからね。それに旅先からそのままも失礼だろう。 病院にも会長にも…。」 パトリシア「ディディエ…。」 パトリシアの叫びに近い呼びかけも、今のディディエには届かなかった。 そのまま、部屋へ下がってしまう。 あれ程寄り添って居た筈の、2人の心が離れてしまったとパトリシアは感じていた。 クラブアラベスクの店内。 バンジャマン「ヴァンサン…。」 ヴァンサン「どうした!?」 バンジャマン「行かなくて良いのか!?」 ヴァンサン「親父の所か…。」 バンジャマン「あぁ…。」 ヴァンサン「あの人が、居るだろうし。容態はパトリシアが知らせてくれてる。」 バンジャマン「しかし…。」 ヴァンサン「心配いらないよ、大丈夫。」 自分に言い聞かせる。そんな感じ…。 ヴァンサン「それより、また会社から予約が入ったのか!?」 バンジャマン「あぁ、一週間後だが、大物の客を連れて行くからと連絡が入った。金払いは良いんだが…。」 ヴァンサン「良いさ。出す物は出してくれるんだ。そうだろう…!?」 微妙な皮肉混じりに…。 バンジャマン「そうだな…。」 本編のクラブのシーンに繋がる話である。 屋敷内へ…。 ディディエが、何やら書き物をしている。深夜、家の者が寝静まってから。 パトリシアが、起きてくる。 パトリシア「ディディエ…!?」 呼ばれて、書いていた物を閉じて。 ディディエ「パトリシア…。起きていたのか!?」 僅かだが、動揺しているのが分かる。 パトリシア「ディディエ。貴方こそ疲れているでしょう。家に持ち帰ってまで、お仕事しなくても…。」 ディディエ「心配しなくて良いよ。もう少ししたら終わるから。先におやすみ。私もすぐに行くから。」 先に寝室へ行くように、促す。 パトリシアは、ハッキリと言わない。仕事の事は明かさないディディエに対して ますます不安をつのらせて行った。 パトシリア「明日は…。」 ディディエ「あぁ、明日は一緒にお見舞いに行こう。」 そう約束して、パトリシアは退場。 ディディエ。もう一度書きかけの物を開いて、少し目を通して。金庫と思われる場所に片付ける。 その上でその場を離れる…。 パトリシアが、もう一度現れて、その様子を見ていたと分かる。 本編の流れ この後、本編での出来事が起こる。 愛し、だから傷つけ合い。そして本当に欲しかったもの。 愛する人の温もりに、ディディエは気付く事になる。 望み続けた、地位も富も手に入りはしなかったが…。 望みの果て…(ディディエとパトリシアの新たな旅立ち) オープニングへ戻っている。 ディディエが、今までの自分を振り返っている。 その横顔を、穏やかな幸せな笑顔のパトリシアが見つめている。 パトリシア「ディディエ…!?」 気が付いて。 ディディエ「あぁ、行こうか…。」 パトリシア微笑んで、腕を組む。もう多くの言葉は、必要では無かった。 寄り添いお互いの温もりがそこにあれば、その事実があれば信じられた。 ディディエ「今度こそ、この陽射しを見失わずに、歩いていけるだろか…。」 パトリシア「私が居るのよ…。」 悪戯な響きを含んで、でも確かな自信を持って。 ディディエ「そうだな…。」 優しい朝の空気が2人を包んでいた。 2人見つめ合いながら、舞台奥へ消えていく。 新しい、旅立ち。今度こそ、お互いを見失わないと、誓いながら…。 幕 |
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